第10話「高齢者のための交通政策」

とある交通事故を起こした老人が、病院から退院した所をマスコミに取り囲まれながらやっと歩く姿を見て、加害者ではあるものの気の毒にさえ感じることがありました。事故によりひどくなったのかもしれませんが、その老人はもともと足が不自由だったそうです。この老人は、なぜ免許を返納しなかったのでしょうか。

今や色々な介助道具はありますが、体が衰えてもわずかな力で移動できる自動車は、高齢者にとってまさに最上の介助道具とも言え、中々手放せない物だということが事実としてあります。この富山において、もし自動車を手放したとすれば、移動するためには誰かの自動車に同乗させてもらうかタクシーしかありません。

富山市の法人企業としてのタクシーは、所定の乗場や営業所に車両を待機させています。タクシーに乗車する時、ワンメーター乗車は良い顔をされないのではないかと心配する人は多いと思いますが、タクシーの待機所から離れたエリアでワンメーター分乗車する場合はなおさらです。

富山市内のタクシー料金は、初乗り料金と迎車料金もほぼ同程度で千円以下です。そのため、タクシーの営業所から離れた場所に迎えに行って、その近隣までの乗車となると送迎のロスが大きく、乗車を嫌がられる場合が現実としてあります。法律により、乗車を拒否する行為は禁止されていますが、送迎に行けない理由は何とでも言えますし、そもそも運転手に嫌な顔をされては乗車していても乗り心地が悪いと思います。

「近所のかかりつけの病院に通院したい。」
「近所の居酒屋での会合に参加したい。」

このような生活の中の声に、当人が免許を返納したとしても応えられる富山市であるよう、まずは行政として業界団体にしっかりと取組むことを要請しておくべきだと思っています。

アメリカでの移動はウーバーのシステムを利用した白タクなしでは語れませんし、中国においても、アメリカと同様のディディという白タクが健全に稼働しています。こういった取組がない日本は後進国になるのではないかと心配になりますが、実は京都府の京丹後市ではこのウーバーを利用した白タクがすでに認可されていて、自家用車を利用した18人の市民ドライバーが、タクシー会社の見捨てたエリア内を走っているのです。

当然、現在富山で営業しているタクシー会社の存在は重要です。ただそれらを補完するものとして、高齢者が移動しやすくなる何らかの交通政策が必要なのではないでしょうか。

私は、それらの問題を提起するために、令和元年6月議会において質問を行いました。すぐに結果の出るような回答は得られませんでしたが、市長からは非公式で「可能性を探れば協力する」とのアドバイスをもらいました。